48時間(1982年アメリカ)
48 HRS.
TV界では人気コメディアンだった、エディ・マーフィの映画デビュー作。
80年代はコメディ俳優としてハリウッドで大活躍だったエディ・マーフィですが、
意外なほどにデビュー作はハードボイルドというか、結構、マジメな映画でのデビューでした。
持ち前のマシンガン・トークは影を潜め、ニック・ノルティ演じる刑事のチョット変わった相棒という程度。
どちらかと言えば、ウォルター・ヒルが男気たっぷりに
乾いたアクションを堂々と真正面から描く感じで、映画は思いのほか正攻法な内容だ。.
映画は屋外労働している囚人を監視する看守の前に、
先住民系の男が車を走らせて「水を分けてくれ」と頼みに来るところから始まります。
ここから残忍な殺人をもいとわず逃避行を続ける逃走犯と、捜査の過程で2人の仲間の刑事を殺され、
怒りに燃えて追跡するニック・ノルティ演じる刑事を中心に、ハードボイルド・タッチで描いています。
そもそも、ニック・ノルティとエディ・マーフィというコンビ自体、
想像がつかないのですが、硬派なニック・ノルティと口八丁手八丁のエディ・マーフィというアンバランスなコンビで、
思いのほかシリアスな刑事アクションを展開するというのが、絶妙なまでに見事に調和をとっている。
コメディのニュアンスは極めて少なく、エディ・マーフィ演じるレジーのトンデモない、
女性蔑視とも解釈されかねない酷い口説きにしても、さすがに時代を感じさせる部分で、
当時の常識と照らし合わせて推察しても、やはりウォルター・ヒルはアクションに徹した方が
良い結果につながる映像作家ですね。下手にドラマ性とか凝ってしまうと、一気に映画がダメになるタイプです。
特に映画の後半にある、サンフランシスコの地下鉄駅でのガン・ファイトはシビれる展開で、
幾多のアクション演出を手掛けてきたウォルター・ヒルのキャリアの中でも、有数の出来と言っていいだろう。
映画が全体的にソリッドな仕上がりであることと、
ニック・ノルティ演じる主人公の刑事をストイックなまでに、武骨に描き通したことに、
ウォルター・ヒルの首尾一貫した演出的アプローチを感じさせ、今でも新鮮さは失っていない。
しかし、この映画には“華”がない。
せっかくのエディ・マーフィを映画の世界に飛び立たせたとは言え、これではさすがに寂しい。
どうも、持ち前の魅力を発揮する前に、彼の持ち味を生かせる内容ではなかったと言えなくはありません。
そういう意味では、少し早過ぎた企画だったのかもしれません。
ハリウッドも80年代半ばに入ると、ヒットしたアクション映画というのが数多く出てきましたから、
良い意味で“華”のあるアクション映画を作るノウハウというのは、確立されていたはずなので、
もう少し後になって本作製作の企画が立ち上がっていれば、もっと違う内容になっていたかもしれません。
欲を言えば、ニック・ノルティ演じる刑事の恋人を演じたアネット・オトゥールが、
思いのほかメイン・ストーリーに絡んでこないことで、映画のハードボイルドな質感を変えない目的が
あったのかもしませんが、幾度となく電話で彼女が登場してくるので、チョット中途半端に見えたのが残念。
この程度ならば、いっそのこと彼女は登場させなくとも、良かったような気がします。
こういった部分とか、先述したエディ・マーフィがバーで女性をクドくシーンなんかを観ると、
やっぱりウォルター・ヒルに女性キャラクターは、上手く描けませんね。これは致命的なほどにまで。
こういう不器用さというか、かなり偏った部分は凄く勿体ないディレクターで、評価が上がらなかった原因でしょう。
この映画の面白いところは、よくあるタイプの映画として、
“48時間”というタイムリミットがある映画というのは、48時間以内に完結させないと、
死んでしまう危険が迫っているとか、失職してしまうとか、かなり大きなリスクを伴う設定になっていることが
多いのですが、本作の場合はあくまでレジーを使って捜査ができる期限が“48時間”ということで、
タイムリミットがあることによる逼迫感というのは、やや弱いのですが、その分だけ逃走犯の残虐性や
ニック・ノルティとエディ・マーフィがユルくやり取りする魅力に注力しているのが、逆に功を奏したかもしれません。
今尚、他作品との差別化を図れた要因として考えてもいいくらいだと思いますね。
ウォルター・ヒルは本作の前に、『エイリアン』の監督をやることを敢えて断ったりしていて、
SF映画が嫌いで、VFXなど特殊効果技術を使うことに否定的であると言われてきたのですが、
実際はそうではなく、ただただ痛みやツラさといった、感覚を伴う映像表現をしたいがためであり、
別にSF映画や派手な映像表現が嫌いというわけではないようで、その必要性は認めているようです。
そういう意味で、本作のガン・ファイトにしても、
どちらかと言えば、残酷な描写も躊躇することなく採り入れており、痛みなど感覚のある映像表現だ。
本作はそういったリアリティを追求するスタイルが好きな人には、たまらなく魅力的な映画でしょう。
サンフランシスコの市街地を舞台とした映画ということで、
どこか68年の名作『ブリット』を思い起こさせる内容なのですが、カー・チェイスはごく僅か。
でも、やはりサンフランシスコは坂道が中心に映されるせいか、
サンフランシスコを舞台にした映画というのは、車が一つの大きなキー・ポイントになってきます。
そう言えるほどに、サンフランシスコの街並みに車がよく似合うのだ。この辺はウォルター・ヒルも意識していただろう。
ちなみに本作の脚本としてロジャー・スポティスウッドの名前がクレジットされていますが、
彼は75年のウォルター・ヒルの監督デビュー作『ストリートファイター』から、編集としてスタッフに加わっていましたが、
本作では一転して脚本を執筆していて、次第に映画監督としての仕事を中心にシフトしていきます。
どうも個人的には・・・ロジャー・スポティスウッドの監督作品にはあまり良い思い入れがないのだけれども、
本作の脚本にしても、全体的に荒っぽくて、後年の彼の監督作品の片鱗が見えているような気がしてなりません。
もう少しウォルター・ヒルのアクション描写にストイックなところだとか、
一貫性ある演出スタイルだとか、そういった部分を学び吸収されていれば、もっと違ったディレクターに
なっていたかもしれないと思えるだけに残念ですね。もっと踏み込んだ映画を撮っていれば・・・と思えてなりません。
(上映時間96分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 ウォルター・ヒル
製作 ローレンス・ゴードン
ジョエル・シルバー
脚本 ロジャー・スポティスウッド
ウォルター・ヒル
ラリー・グロス
スティーブン・E・デ・スーザ
撮影 リック・ウェイト
音楽 ジェームズ・ホーナー
ザ・バス・ボーイズ
出演 ニック・ノルティ
エディ・マーフィ
アネット・オトゥール
ジェームズ・レマー
ソニー・ランダム
デニース・クロスビー
フランク・マクレー
デビッド・パトリック・ケリー
1982年度ロサンゼルス映画批評家協会賞音楽賞(ザ・バス・ボーイズ) 受賞